夢なき夢の數を經ぬ。
只だ此のまゝに『寂《じやく》』として、
花もろともに滅《き》えばやな。
[#改ページ]
雙蝶のわかれ
ひとつの枝に雙《ふた》つの蝶、
羽を收めてやすらへり。
露の重荷に下垂るゝ、
草は思ひに沈むめり。
秋の無情に身を責むる、
花は愁ひに色褪めぬ。
言はず語らぬ蝶ふたつ、
齊しく起ちて舞ひ行けり。
うしろを見れば野は寂《さび》し、
前に向へば風|冷《さむ》し。
過ぎにし春は夢なれど、
迷ひ行衛は何處ぞや。
同じ恨みの蝶ふたつ、
重げに見ゆる四《よつ》の翼《はね》。
雙び飛びてもひえわたる、
秋のつるぎの怖ろしや。
雄《を》も雌《め》も共にたゆたひて、
もと來し方へ悄れ行く。
もとの一枝《ひとえ》をまたの宿、
暫しと憇ふ蝶ふたつ。
夕《ゆふ》告《つ》げわたる鐘の音に、
おどろきて立つ蝶ふたつ。
こたびは別れて西ひがし、
振りかへりつゝ去りにけり。
[#改ページ]
露のいのち
待ちやれ待ちやれ、その手は元へもどしやんせ。無殘な事をなされまい。その手の指の先にても、これこの露にさはるなら、たちまち零《お
前へ
次へ
全23ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング