夢なき夢の數を經ぬ。
只だ此のまゝに『寂《じやく》』として、
  花もろともに滅《き》えばやな。
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  雙蝶のわかれ


ひとつの枝に雙《ふた》つの蝶、
羽を收めてやすらへり。

露の重荷に下垂るゝ、
  草は思ひに沈むめり。
秋の無情に身を責むる、
  花は愁ひに色褪めぬ。

言はず語らぬ蝶ふたつ、
齊しく起ちて舞ひ行けり。

うしろを見れば野は寂《さび》し、
  前に向へば風|冷《さむ》し。
過ぎにし春は夢なれど、
  迷ひ行衛は何處ぞや。

同じ恨みの蝶ふたつ、
重げに見ゆる四《よつ》の翼《はね》。

雙び飛びてもひえわたる、
  秋のつるぎの怖ろしや。
雄《を》も雌《め》も共にたゆたひて、
  もと來し方へ悄れ行く。

もとの一枝《ひとえ》をまたの宿、
暫しと憇ふ蝶ふたつ。

夕《ゆふ》告《つ》げわたる鐘の音に、
  おどろきて立つ蝶ふたつ。
こたびは別れて西ひがし、
  振りかへりつゝ去りにけり。
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  露のいのち


待ちやれ待ちやれ、その手は元へもどしやんせ。無殘な事をなされまい。その手の指の先にても、これこの露にさはるなら、たちまち零《お
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