りも忘るゝ人心、
    きのふの友はあらずかや。」

人あらば近う寄れかし來れかし、
    むかしを忍ぶ人あらば。
天地《あめつち》に盈《み》つてふ精も近よれよ、
    見せむひとさし舞ふて見せむ。
舞ふよ髑髏めづらしや髑髏の舞、
    忘れはすまじ花小町。
高く跳ね輕く躍れば面影の、
    霓裳羽衣を舞ひをさめ。
かれし咽うるほはさんと溪の面《おも》、
    うつるすがたのあさましや。
はら/\と落つるは葉末の露ならで、
    花の髑髏のひとしづく。」

うらめしや見る人なきもことはりぞ、
    昨日にかはれる今日の舞。
纏頭《てんとう》の山を成しける夢の跡、
    覺めて恥かし露の前。
この身のみ秋にはあらぬ野の末の
    いづれの花か散らざらむ。
うたてやなうきたる節の呉竹に、
    迷はせし世はわが迷ひ。
忘らるゝ身も何か恨みむ悟りては、
    雲の行來に氣もいそぐ。
暫し待てやよ秋風よ肉なき身ぞ、
    月の出ぬ間《ま》にいざ歸《かへ》らむ。
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  古藤菴に遠寄す


一輪《いちりん》花の咲けかしと、
   願ふ心は君の爲め。
薄雲《
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