たる穴の淺きは幸なれや。
墓にすゑたる石輕み。
いでや見むいかにかはれる世の態を、
小笹蹈分け歩みてむ。
世の中は秋の紅葉か花の春、
いづれを問はぬ夢のうち。」
暗なれや暗なれや實に春秋も
あやめもわかぬ暗の世かな。
月もなく星も名殘の空の間《ま》に、
雲のうごくもめづらしや。
天《あめ》を衝く立樹にすがるつたかつら、
うらみあり氣に垂れさがり。
繁り生ふ蓬はかたみにからみあひ、
毒のをろちを住ますらめ。
思ひ出るこゝぞむかしの藪なりし、
いとまもつげでこのわが身、
あへなくも落つる樹の葉の連となり
死出の旅路にいそぎける。」
すさまじや雲を蹴て飛ぶいなづまの
空に鬼神やつどふらむ。
寄せ來《きた》るひゞき怖ろし鳴雷《なるかみ》の
何を怒りて騷ぐらむ。
鳴雷《なるかみ》は髑髏厭ふて哮《たけ》るかや、
どくろとてあざけり玉ひそよ。
昔はと語るもをしきことながら、
今の髑髏もひとたびは、
百千《もゝち》の男《をのこ》なやませし今小町とは
うたはれし身の果ぞとよ。
忘らるゝ身よ
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