みはてゝ、
食《た》うべず過ぎしは月あまり、
何事もたゞ忘るゝをたのしみに、
草枕ふたゝび覺《さめ》ぬ眠に入らなむ。
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みどりご
ゆたかにねむるみどりごは、
うきよの外《そと》の夢を見て、
母のひざをば極樂《ごくらく》の、
たまのうてなと思ふらむ。
ひろき世界《せかい》も世の人の、
心の中《うち》にはいとせまし。
ねむれみどりごいつまでも、
刺《とげ》なくひろきひざの上に。
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平家蟹
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友人隅谷某、西に遊びて平家蟹一個を余が爲に得來りたれば、賦して與ふるとて
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神々に、
みすてられつゝ海そこに、
深く沈みし是非なさよ。
世の態は、
小車のめぐりめぐりて、
うつりかはりの跡留めぬに、
われのみは、
いつの世までもこのすがた、
つきぬ恨みをのこすらむ。
かくれ家を、
しほ路の底に求めても、
心やすめむ折はなく。
しらはたの、
源氏にあらぬあまびとの、
何を惡《にく》しと追ひ來《く》らむ。
まどかなる、
月は波上を照せども
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