みはてゝ、
 食《た》うべず過ぎしは月あまり、
   何事もたゞ忘るゝをたのしみに、
   草枕ふたゝび覺《さめ》ぬ眠に入らなむ。
[#改ページ]

  みどりご


ゆたかにねむるみどりごは、
     うきよの外《そと》の夢を見て、
母のひざをば極樂《ごくらく》の、
     たまのうてなと思ふらむ。
ひろき世界《せかい》も世の人の、
     心の中《うち》にはいとせまし。
ねむれみどりごいつまでも、
     刺《とげ》なくひろきひざの上に。
[#改ページ]

  平家蟹


[#ここから4字下げ]
友人隅谷某、西に遊びて平家蟹一個を余が爲に得來りたれば、賦して與ふるとて
[#ここで字下げ終わり]

神々に、
みすてられつゝ海そこに、
  深く沈みし是非なさよ。
世の態は、
小車のめぐりめぐりて、
  うつりかはりの跡留めぬに、
われのみは、
いつの世までもこのすがた、
  つきぬ恨みをのこすらむ。

かくれ家を、
しほ路の底に求めても、
  心やすめむ折はなく。
しらはたの、
源氏にあらぬあまびとの、
  何を惡《にく》しと追ひ來《く》らむ。
まどかなる、
月は波上を照せども
前へ 次へ
全23ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング