なる社界学上の事実なり、或は鳥吟を摸擬し、或は美花を粗末なる仕方にて摸写するなどの事は、極めて劣拙の人種にも是あるなり。又た、尤も幼稚なる嬰児にても、美くしき玩弄品《トイス》を見ては能《よ》く笑ひ、音楽の響には耳を澄ます事は、普通なる事実なり。之を以て見れば文明といふ怪物が、人間を遊惰放逸に駆りたるよりして、始めて美の要を生じたりと見るの僻見なることは、多言せずして明らかなるべし。美は実に人生の本能に於て、本性に於て、自然に願欲するものなることは認め得べきことなり。斯の如く美を願欲するには、人生の本能、人性の本性に於て、然り、といふ事を知り得たらば、吾人は、一歩を進めて、
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人生は快楽を要するものなりや否や
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の一問を解かざるべからず。
快楽は何の為に、人生に要ある。人生は快楽なくして、生活し得べきものなるべきや。ピユリタニズムの極端にまで攀《よ》ぢ登りて見ても、唯利論の絶頂にまで登臨して見ても、人生は何事か快楽といふものなくては月日を送ること能はざるは、常識といふ活眼先生に問ふまでもなく、明白なる事実なり。
快楽は即ち慰藉《ゐしや》(
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