り。更に細説すれば、一方に於ては、武将の統御に打勝ちたる王室の権力あり。他方に於ては、一団躰の統治乱れて聯合したる勢力の勝利あり。征服者として天下を治めたる武断的政府は徳川氏を以て終りを告げ、広き意味に於て国民の輿論の第一の勝利を見たり。而して之を促がしたるものは外交問題なりしことを忘るべからず。
 凡《およ》そ外交問題ほど国民の元気を煥発するものはあらざる也。之なければ放縦懶惰安逸虚礼等に流れて、覚束《おぼつか》なき運命に陥るものなり。徳川氏の天下に臨むや、法制厳密にして注意極めて精到、之を以て三百年の政権は殆《ほとんど》王室の尊厳をさへ奪はんとするばかりなりし、然るに彼の如くもろく仆《たふ》れたるものは、好《よ》し腐敗の大に中に生じたるものあるにもせよ、吾人は主として之を外交の事に帰せざるを得ず。而して外交の事に就きても、蓋し国民の元気の之に対して悖《ぼつ》として興起したることを以て、徳川氏の根蔕を抜きたる第一因とせざるべからず。
 国民の精神は外交の事によつて覚醒したり。其結果として尊王攘夷論を天下に瀰漫《びまん》せしめたり、多数の浪人をして孤剣三尺東西に漂遊せしめたり。幕府衰亡
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