の顛末《てんまつ》は、桜痴《あうち》居士の精細なる叙事にて其実況を知悉《ちしつ》するに足れり。吾人は之を詳論するの暇なし、唯だ吾人が読者に確かめ置きたき事は、斯の如く覚醒したる国民の精神は、啻《たゞ》に徳川氏を仆したるのみならず、従来の組織を砕折し、従来の制度を撃破し尽くすにあらざれば、満足すること能はざること之なり。
 明治政府は国民の精神の相手として立てり。国民の精神は明治政府に於て其の満足を遂げたり、爰に至つて外交の問題も一ト先づ其の局を結びたり、明治六七年迄は聯合したる勢力の結托|鞏固《きようこ》にして、専ら破壊的の事業に力を注ぎたり、然れども明治政府の最初の聯合躰は、寧ろ破壊的の聯合組織にして、破壊すべき目的の狭まくなりゆくと共に、建設すべき事業に於て、相|撞着《どうちやく》するところなき能はず。爰に於て征韓論の大破綻あり、佐賀の変、十年の役等は蓋し其の結果なるべし。之よりして政府部内にあるすべての競争は、聯合躰より単一躰に趣かんとする傾向に基けり、凡ての専制政躰に於て此事あり、吾人は独り明治政府を怪しまざるなり。
 吾人の眼球を一転して、吾国の歴史に於て空前絶後なる一主義の
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