以て、余は愛山君の反駁《はんばく》に答ふることをせざりし。然るに豈図らんや、其他にも余が所論を難ぜんとしてか、或は他に為にする所ありてか、人生に相渉らざるべからずといふ論旨の分明に解得せらるゝ論文の、然も大家先生等の手に成りて出でしを見るに至らんとは。若し此事にして余が所説に対して、或は余が所説に動かされて、出でたるものなりとするを得ば、余は至幸至栄なるを謝するに吝《やぶさか》ならざるべし。然れども、極めて不幸なりと思ふは、余は是等の文章に対して返報するの権利[#「権利」に傍点]なきこと是なり。文学が人生に相渉るものなることは余も是を信ずるなり、恐らく天地間に、文学は人生に相渉るべからずと揚言する愚人は無かるべし。但し余が難じたるは、(1)[#「(1)」は縦中横]世を益するの目的を以て、(2)[#「(2)」は縦中横]英雄の剣を揮《ふる》ふが如くに、(3)[#「(3)」は縦中横]空《くう》の空を突かんとせずして、或|的《まと》を見て、(4)[#「(4)」は縦中横]華文妙辞を退けて、而《しか》して人生に相渉らざるべからずと論断したるを難じたるなり。故に余は以上の条件を備へざる人生相渉論なら
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