、而して人間は実に有限と無限との中間に彷徨《はうくわう》するもの、肉によりては限られ、霊に於ては放たるゝ者にして、人間に善悪正邪あるは畢竟《ひつきやう》するに内界に於て有限と無限との戦争あればなり、帰一《ユニチー》を求むるものは物質なり、調和を需《もと》むるものは物質なり、而して精神に至りては始めより自由なるものなり、始めより独存するものなり。
人間は活動す、而して活動なるものは「我」を繞《めぐ》りて歩むものにして、「我」を離るゝ時は万籟《ばんらい》静止するものなり、自己の「我」は生存を競ふものなり、法の「我」は真理に趣くものなり、然れども人間の種族は生存を競ふの外に活動を起すこと稀なり、愛国|若《もし》くは犠牲等の高尚なる名の下にも、究極するところ生存を競ふの意味あり、人は何事をか求むるものなり、人は必らず情[#「情」に傍点]を離れざるものなり、人は自己を愛[#「愛」に傍点]するものなり、倫理道徳を守る前に人間は必らず自己の意欲に僕婢たるものなり、斯の如く意[#「意」に傍点]の世界に於て人間は禁囚せられたる位地に立つものなり。
人生は斯の如く多恨なり、多方なり、然れども世界と共に
前へ
次へ
全44ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング