心を益せざるべからずといふ論)、勧懲主義[#「勧懲主義」に傍点](善を勧め悪を懲《こ》らすべしといふ論)、及び目的主義[#「目的主義」に傍点](何か目的を置きて之に対して云々すべしといふ論)、等が古来より尤も多く主要[#「主要」に傍点]の位地に立てるを見出すなり。斯の如くにして、神聖なる文学を以て、実用と快楽に隷属[#「隷属」に傍点]せしめつゝありたり。宜《むべ》なるかな、我邦の文運、今日まで憐れむべき位地にありたりしや。
 余は次号に於て、徳川時代の文学に、「快楽」と「実用」との二大|区分《クラシフ※[#小書き片仮名ヒ、1−6−84]ケーシヨン》ある事。平民文学、貴族文学の区別ある事。倫理と実用との関係。等の事を論じて、追々に明治文学の真相を窺《うかゞ》はん事を期す。(病床にありて筆を執る。字句尤も不熟なり、請ふ諒せよ。)

     二、精神の自由

 造化万物を支配する法則の中に、生と死は必らず動かすべからざる大法なり。凡《およ》そ生あれば必らず死あり。死は必らず、生を躡《お》うて来る。人間は「生」といふ流れに浮びて「死」といふ海に漂着する者にして、其行程も甚だ長からず、然るに人
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