一文の中に其一端を論じたる事あれば、就いて読まれん事を請ふになむ。是より、
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「快楽」と「実用」との双関
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に就きて一言せむ。
「快楽」と「実用」とは特種の者にして、極めて密接なる関係あるものなり。実用を離れたる快楽は、絶対的には全然之なしと断言するも不可なかるべし。快楽の他の意味は慰藉《コンソレーシヨン》なる事は前にも言ひたり。慰藉といふ事は、孤立《アイソレーテツド》したる立脚点《スタンドポイント》の上に立つものにあらずして、何物にか双対するものなり。ヱデンの園に住みたる始祖には、慰藉といふものゝ必要は無かりし。之あるは人間に苦痛ありてよりの事なり。故に、
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人生何が故に苦痛あるか
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の一問を解くの止むべからざるを知る。
曰く、欲《パツシヨン》なる魔物が、人生の中に存すればなり。凡ての罪、凡ての悪、凡ての過失は欲あるが故にこそあるなれ。而して、罪、悪、過失等の形を呈せざる内部の人生に於て、欲と正義と相戦ひつゝある事は、苟《いやし》くも人生を観察するに欠くべからざる要点なり。この戦争が人生の霊
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