に、創造的天才《クリヱチーフ・ジニアス》の手に成りたる美を愛好するに至ることも、亦《ま》た当然の成行なり。美は始めより同じものにして、軽重増減あるものにあらざれど、美術の上に於ては、進歩すべきものなること是を以てなり。而して此観察点より推究する時は、尤も進歩したるモーラル・ライフ(道義の生命)を有つものは、尤も健全にして、尤も円満なる美を願欲するものなることは、判断するに難からじ。而して、社界進歩の大法を以て之を論ずる時は、尤も完全なる道義の生命を有する国民が尤も進歩したる有様にある事は、明白なる事実なれば、従つて又た、尤も円満なる快楽を有し、尤も完全なる美を願欲する人種が尤も進歩したる国家を成すことは、容易に見得べき事なり。吾人は更に、
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道義的生命([#ここから割り注]ライフという字は人生と訳するも可なり[#ここで割り注終わり])が快楽に相渉る関係
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に就きて一言せざる可からず。
 道義《モーラル》といふ字を用ふるには、宗教及哲学に訴へて、其字義を釈説すること大切なるべし、然れども吾人は序言に於て断りしたる如く、成《な》る可《べ》く平民
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