より尤も高等なる動物を作るにあらず、尤も高等なる動物をして、その高等なる所以《ゆゑん》を自覚[#「自覚」に傍点]せしめ、その高等なる職分を成就[#「成就」に傍点]せしむるにあり。宇宙の存在は微妙なる階級の上に立てり。一点之を傷くるあれば、必らずその責罰としての不調和あり。之れ即ち調和の中に、戦へる不調和の原意《ヱレメンツ》ある所以なり。微妙なる階級、微妙なる秩序、これありて万物悉く其の処を安んずるを得るなり。東に吹く風は再び西に吹き来る、気|燥《かわ》くところに雲自から簇《あつ》まるなり、雲は雨となり、雨は雲となる、是等のもの一として宇宙の大調和の為に動くところの小不調和にあらざるはなし。万《よ》ろづの事皆な空にして、法のみ独り実《じつ》なり、法のみ独り実にして、法に遵《したが》ふところの万物皆な実なるを得べし。自然は常変にして不変、常動にして不動、常為にして無為、法の眼に於て然り。
 宗教完全にして美術も亦た完全ならんか、美術と宗教と相距《あひへだゝ》ること数歩を出でざるなり。然れども宗教にしていつまでも乾燥なる神学的の論拠に立籠《たてこも》らんか、美術も亦た己がじゝなる方向に傾かん
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