社会には復讐といふ事は遂に其跡を絶たざるべからず。(但し懲罰といふ事は別題なり)。
然れども宗教は架空の囈言《うはこと》たらしむべからず、無暗に唯だ救とか天国とか浮かれ迷はしむべからず。宗教はクリード(信仰個条)にあらざるなり、宗教は聖餐《せいさん》にあらず、洗礼にもあらず、但しは、法則にも、誡命にもあらざるなり、赤心の悔改と赤心の信仰とは、いかなる塲合に於ても尤も大なる宗教なり。而して宗教は、ヒユーマニチーの深奥に向つて寛々たる明燈たるべきものなり。人生実に測るべからざるものあり、人生実に知るべからざるものあり。願くは吾等信仰をして皮相の迷信たらしめず、深く人間と神との間に、成立たしめんことを。
復讐と戦争
一個人の間には復讐なり。国民と国民の間には戦争なり。復讐の時代は漸《やうや》く過ぎて、而して戦争も亦た漸く少なからんとす。宗教の希望は一個人の復讐を絶つと共に、国民間の戦争を断たんとするにあるべし。
自殺
苦惨の海に漂ふて、よるべなぎさの浮き身となる時は、人は自然に自殺を企つるものなり。人は己れを殺すことを以て、己れの財産を蕩尽《たうじん》すると
前へ
次へ
全7ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング