同じ様に考ふるなり。
然れども名誉は自殺を促すことあり。名誉の唯一の保護者の位地に自殺を置くことあり。人の生命は名誉よりも軽くなることあるは奇怪ならずや。
外に又た自殺は自ら為したる害に対して、自ら加ふる害の如きことあり。この塲合には自殺は自伐の復讐なり。この復讐によりて万事を決せんとす。嗚呼《あゝ》、人間の事いかに悲しむべきにあらずや。
自殺と復讐
「ハムレツト」を読みたるものはおもしろき自殺と復讐の関係を知るべし。英国の思想にては、自殺は東洋の思想にて考へらるゝよりも苦しきものなり。「死」は其塲かぎりのものにあらず、死の後に何か心地よからぬことありと思ふは彼の思想なり。「死」は最後のものにして、残るは唯だ形骸のみとするは我が思想なり。此点に於て彼我大なる差違あり。
短剣を以て自ら加ふるは極めて易し、然れども人は之を為すよりも寧ろ自らの受けたる害に対して復讐し、而して復た其の復讐の復讐として自ら殺さるゝを喜ぶなり。自殺は自ら殺すものにして人に害を与ふるものならず、人は之を尚《たふと》ぶべきに、却《かへ》つて人を害したる後に自ら殺すを快とす、奇怪なるかな。
ハムレ
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