復讐・戦争・自殺
北村透谷

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)名《なづ》けて

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)怪物|棲《す》めり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ](明治二十六年五月)
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     復讐

 人間の心界に、頭は神にして脚は鬼なる怪物|棲《す》めり。之を名《なづ》けて復讐と云ふ。渠《かれ》は人間の温血を吸ひて人間の中に生活する無形動物にして、古《いにし》へより渠が為に身を誤りたるもの、渠によりて志を得たるもの、渠の為に苦しみたるもの、渠の為に喜びたるもの、挙《あげ》て数ふべからざるなり。
 見よ、戯曲は渠を以て上乗の題目とするにあらずや、見よ、世間は渠を以て尊ふとむべきものとするにあらずや、而して復讐なるもの、そのいかなる意味の復讐に関《かゝは》らず、人間の心血を熱して、或は動物の如く、或は聖者の如く、人を意志の世界に覚めしむるはあやし、あやし。
 復讐は快事なり。人間は到底、平穏無事なるものにあらず。罵《のゝし》らるれば怒り、撃たるれば憤る、而して、其の怒ること、其の
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