、硝子《ガラス》は水晶に比して活用の便あり、以て※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]戸を装ふべし、以て洋燈のホヤとなすべし、天下|普《あまね》く其の活用の便を認むるを得るなり。然れども天下の愚人が水晶といふ活用の便に乏しきものに向つて、高価を払ふは何ぞや。水晶を買ふものをして、数十金を出して露店の硝子玉を買はしめんとする神学を創見するものあらば、余は疑はず、水天宮に参詣する衆生は争ひ来りて其説法を聴聞するなるべし。京山をして、山陽をしてこのテンプルの偶像たらしめば、カーライルをして「英雄崇拝論」に一題を欠きたりしを、地下に後悔せしむることあるべし。
吉野山に遊覧して、歎息するものあり、曰く、何ぞ桜樹を伐《き》りて梅樹を植ゑざる、花王樹は何の活用に適するところあらむ、梅樹の以て千金の利を果実によつて得るに如《し》かんやと、一人ありて傍より容喙《ようかい》して曰へらく、梅樹は得るところの利に於て甘藷《かんしよ》を作るに如かず、他の一人は又た曰く、甘藷は市場に出ての相塲極めて廉なり、亜米利加《アメリカ》種の林檎《りんご》を植ゆるに如かずと。われは是等の論者が利を算するの速なるを喜び、
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