樹を瞰《なが》めて奇句を吐かんとするものは此家の老畸人、剣を撫《なで》し時事を慨《うれ》ふるものは蒼海、天を仰ぎ流星を数ふるものは我れ、この三箇《みたり》一室に同臥同起して、玉兎《ぎよくと》幾度《いくたび》か罅《か》け、幾度か満ちし。
三たび我が行きし時に、蒼海は幾多の少年壮士を率ゐて朝鮮の挙に与《あづか》らんとし、老畸人も亦た各国の点取《てんしゆ》に雷名を轟かしたる秀逸の吟咏を廃して、自村の興廃に関るべき大事に眉をひそむるを見たり。この時に至りて我は既に政界の醜状を悪《に》くむの念漸く専らにして、利剣を把《と》つて義友と事を共にするの志よりも、静かに白雲を趁《お》ふて千峰万峰を攀《よ》づるの談興に耽《ふけ》るの思望|大《おほい》なりければ、義友を失ふの悲しみは胸に余りしかども、私《ひそ》かに我が去就を紛々たる政界の外《ほか》に置かんとは定めぬ。この第三回の行《かう》、われは髪を剃り※[#「竹かんむり/(工+卩)」、第3水準1−89−60]《つゑ》を曳きて古人の跡を蹈み、自《みづ》から意向を定めてありしかば義友も遂に我に迫らず、遂に大坂の義獄に与《あづか》らざりしも、我が懐疑の所見朋
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