に進歩にして恒に退歩なる中にありて、相接近しつゝあるにあらずや。唯心論を以て唯物論を罵《のゝし》るは誰ぞ。唯物論を以て唯心論を罵るは誰ぞ。彼にも粋あり、此にも粋あり、彼にも糠《かう》あり、此にも糠あり、妄《みだり》に此の粋を以て、彼の粋を撃たんとするは誰ぞ。縦《ほしいまゝ》に此の糠を以て、彼の糠を排せんとするは誰ぞ。民友子大喝して曰く、「砂丘の上にベベルの高塔を築かんとするは誰ぞ」と。
「造化は終古依然たり、而して終古鮮新なり、」とは善く言はれたるかな。宇宙は実に其中心に於て、一定の方向あるのみ、其外面に於ける進歩と退歩とは、常久に鮮新なる状態を呈するなり、預言者、英雄、詩人、彼等何すれぞ宇宙以外の新物を貪《むさぼ》らんや、彼等も亦た自からの墳墓を造るものなり、百年、千年、万年、あやしきは、Time なり、怖るべきは Time なり、墳墓も亦た Time の為に他の墳墓に投げらるゝなり、墳墓すら其迹を留《とゞ》めず、曷《いづく》んぞ預言者、英雄、詩人を留めんや。営々たる街頭の商児、役々たるレボレトリーの化学者、紛々たる新聞屋の小僧、彼等も亦た彼の預言者と、彼の英雄と、彼の詩人と、其帰着
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