三百幾つと数ふる何《ど》の骨を愛《め》づると云ふにあらず、何《ど》の皮を好しと云ふにあらず、おもしろしと云ふにあらず、楽しと云ふにあらず、我は白状す、我が彼女と相見し第一回の会合に於て、我霊魂は其半部を失ひて彼女の中《うち》に入り、彼女の霊魂の半部は断《たゝ》れて我|中《うち》に入り、我は彼女の半部と我が半部とを有し、彼女も我が半部と彼女の半部とを有することゝなりしなり。然《しか》れども彼女は彼女の半部と我の半部とを以《も》て、彼女の霊魂となすこと能はず、我も亦た我が半部と彼女の半部とを以《も》て、我霊魂と為すこと能はず、この半裁したる二霊魂が合して一になるにあらざれば彼女も我も円成せる霊魂を有するとは言ひ難かるべし。然るに我はゆくりなくも何物かの手に捕はれて窄々《さく/\》たる囚牢の中《うち》にあり、もし彼女をして我と共にこの囚牢の中にあらしめば、この囚牢も囚牢にあらずなるべし、否《い》な彼女とは言はず、前にも言へりし如く我が彼女を愛するは其骨にあらず、其皮にあらず、其|魂《たましひ》にてあれば、我は其魂をこの囚牢の中《うち》に得なむと欲《おも》ふのみ。
日光を遮断《しやだん》する
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