想を実行せん事を図り、大陸の大政治家も亦た頻《しき》りに此理想を唱道せり。
 人は理想あるが故に貴《たふと》かるべし、もし実在の仮偽なる境遇に満足し了る事を得るものならば、吾人は人間の霊なる価直《かち》を知るに苦しむなり。理想なくては希望もあるまじ、希望なくては生命もあるまじ、唯だ理想あるのみにては何の善きを見ず、吾人は理想を抱くと共に、理想の終極まで貫き到らん事を望むべきなり。
 日本には外交の憂患|尠《すくな》し、故に平和協会の必要を見ずと云ふ論者多し、これ将《は》た一種の攘夷論者にあらざらんや。日本は天照皇大神以来の神国なれば外寇《ぐわいこう》の懼《おそ》るべきものなし、故に平和主義の必要を見るなしと言ふは純然たる攘夷論者の言分なるが、これらの論者は強ひて咎《とが》むべきにあらず、前に言ひし一種の攘夷思想を抱けるものは、今日の新鮮なる生気を以て立てる宗教家、思想家の中に多きを見て、慨歎なき能はず。欧洲の思想家、宗教家は日本を以て、新思想|悖如《ぼつじよ》として欧洲に対峙《たいぢ》すべき覚悟あるものと見做《みな》しつ、遊説者を派して、平和協会に応援するところあらしめんとせり、而して
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