ずる一種の攘夷論者の愚を、笑はんとす、世界は日に狭《せば》まり行きて、今日の英国は往日の英国の距離にあらざる事を思ふべし、況んや理想境には遠近なきものを。彼の事業もし我が理想境の事業と同致ならば、我は奮つて彼の事業を佐《たす》くべし、彼の事業もし我理想境と背馳せば、吾は奮つて彼の事業を打破すべし、此点に於て我等は、一種の攘夷思想と趣を同うする事能はず。
 世界万邦の思想は、相接引するの時となれり、東西南北の区劃は政治地図の上にこそ見れ、内部文明には斯かる地図なからんとす、この好時代に生れて、思想界に足を投ずるの栄を得たるもの、誰か徒為《いたづら》に旧思想を墨守し、狭隘《けふあい》なる国家主義を金城鉄壁と崇《あが》め、己れと己れの天地を蠖屈《くわくくつ》の窄《せま》きに甘んぜんとするものぞ。
 幽玄なる哲学者カントが始めて万国仲裁の事を唱へてより、漸く欧洲の思想家、宗教家、政治家等をして、実際に平和の仲裁法の行はるべきを確信せしめたり。十九世紀の当初、米国に平和協会の設立ありてより英独仏以西等の諸国雷応して、この理想を貫かん事を力《つと》む、ブライト、コムデンの輩は英国に起りて熱心に此理
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