て得たる利益は、いづくにありや。荒縦なる仏国|生《うまれ》の自由主義、我に於て甚だ有難からず、絶望より転化し来れる独露あたりの虚無思想、我に於て得るところありと云ふ可からず、頑迷にして局量狭き宣教師的基督教思想の我国に益せしことのすくなきは、世の人の普《あま》ねく認むるところ、法政経済等の諸科学は、未だ以て我国の未来の運命を確固にしたりとは言ふべからず。欧洲今日の毒弊として識者の痛斥すなる皮相文明の輸入、吾人にとりて何かあらむ。此点に於て吾人は、吾党の攘夷論者と同情なきにあらず、然るも吾人の輸入を厭《いと》ふは、攘夷といへる一般の厭忌《えんき》にあらずして、攘偽文明といへる特種の性質を帯びて、欧洲の文明国にあるものとし言へば直ちに輸入し来らんとする軽佻《けいてう》なる欧化主義者流と反対の位置に立たんとするものなり。
然れども※[#「にんべん+淌のつくり」、第3水準1−14−30]《も》し夫れ、彼にありて極めて高潔、極めて荘重なる事業と認むべき者あらば、吾人は邦と邦との隔離を遺忘するに躊躇《ちうちよ》せざるなり。吾人は東洋の一端に棲居するが故に欧洲の大勢を顧眄《こべん》するの要なしと信
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