る仏味と宗教的虚無思想が吾人の中に存して、吾人の生霊を支配せし事久し、貴族的思想の族長制度と印度教との父母より生れて、堅く其地歩を占め、以て平民的共和思想の発達を妨げ居たる事も既に久し、空漠たる大空を理想とする想像に富める哲学者は多けれど、最後の円満なる大理想境に思ひを馳《は》する者はあらず、何事も消極的に退縮して、人生の霊現なる実存を証《あかし》することなく、徒らに虚無|縹渺《へう/″\》の来世を頼む、斯の如くにして活気なき国民となり、萎縮しやすき民人となりて、今日の形勢には推し及びぬ。
われらが尤も悲しく思ふは、一国の脊膸《せきずゐ》なる宗教の力の虚飾に流れ、儀式に落ち、活きたる実際的能力を消耗《せうかう》し去りたる事なり、耶教は近く入れり、故に深く責むべからずと雖、其入りたる後の有様を言へば、満足すべき結果には遠し、仏教は漸く其質を変じて哲学的趣味を専らにし、到底人間を仮偽の虚栄世界、貪慾世界、迷盲世界より救ひ出して、実在の荘厳なる円満境に引誘するの望みなし。而して一種の攘夷論者は此有様を以て上々なる社界の組織と認め、永遠にのぞみをかくべき邦家ぞと信ず。
欧洲の文明国と関聯し
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