家に例すれば、県治の政事海にあるものは論争常に県治の中に跼蹐《きよくせき》し、之れを全国の政事海に徴すれば、奔馬常に狭少なる民吏の競塲に惴々《ずゐ/\》たるに過ぎざるなり。
高言壮語を以て一世を籠絡《ろうらく》するを、男児の事業と心得るものは多し、静思黙考して人間の霊職を崇《たか》うせんと企つる者は、いづくにある。東西両大分割の未来の勝敗を算して、おもむろに邦家の為に熱血を灑《そゝ》ぐものいづくにある。杳遠《えうゑん》なる理想境を観念して、危淵に臨める群盲の衆生を憂※[#「口+金」、第3水準1−15−5]《いうぎん》する者、いづくにある。
自然の趨勢《すうせい》は逆ふこと能はず、吾は彼の一種の攘夷論者と共に言を大にし語を壮にして、東洋の危機を隠蔽せんとするにあらず、もし詳《つまびら》かに吾が宗教、吾が政治、吾が思想、吾が学術を究察する時は、遺憾ながらも、吾は優勝劣敗の舞台に立つて遜色なき事能はず、未来に於て我《わが》豊葦原の民族の消長いかんは、今之を断ずることを得ざれども、此儘にして推し行かば、遂に自然の結局を奈何《いかん》ともすべきなからむか。
つら/\思ふに、寂滅為楽の幽妙な
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