ることあらんや。
 われは心酔せる欧化思想を抱けるものにあらず、我国固有の思想なる三千年来の長江は、我|軽舸《けいか》を載せて奔《はし》らしむるに宜《よろ》しきを知るは、世に所謂《いはゆる》国粋論者なる者に譲るところなきを信ず、然るも彼の舶載せるものと云へばいかなる者をも排斥し尽さんと計るものには、同情を呈する事|能《あた》はず、況《いは》んや、気宇|甕《かめ》の如く窄《せま》き攘夷思想の一流と感を共にする事、余輩の断じて為すこと能はざるところなり。
 余輩は綿々たる我皇統を歴史上に於て倨負《きよふ》するの念なきにあらず、然れども滔々たる世界の共和思想の逆流に立つて、どこまでも旧来の面目を新にする勿《なか》らん事を、熱望するものにはあらず、要するに世界の進歩の巨渦に遡《さから》つて吾運命を形《かたちづ》くる事は、人力の為す可からざるところなるが故に、吾人は思想上に於て苟《いやし》くも世界の大勢に駆らるゝ事ある時には、甘んじて其流勢に随はんと欲するものなり。
 吾人は我邦の公共事業の舞台に立つて役者《えきしや》たる者が、少しく気局を濶大《くわつだい》にせん事を願うて止まざるなり、之を政治
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