カン/\とたゝいてせき[#「せき」に傍点]に出した。
「兄、芳ちやんから手紙が來てたよ。」
「ん。」
「こゝにゐた時の方がなつかしいつて、そんなこと書いてるんだよ。フンだものなア、何がこつたら所。」
お文は、本當にフンとしたやうな顏をした。
「又! ――んだつて本當かもしれねえべよ。」母が口を入れた。
「うそ。大嘘、こつたらどこの何處がえゝツてか。どこば見たつてなんもなくて、たゞ廣《び》ろくて、隣の家さ行《え》ぐつたつて、遠足みたえで、電氣も無えば、電信も無え、汽車まで見たことも無え――んで、みんな薄汚え恰好ばかりして、みんなごろつきで、……。」
「兄、犬の方強えでなア。」
「んでさ、都會は汚れてゐると、そんなことが分る度に、石狩川のほとりで、働いてた頃の、ことが思ひ出されるつて。」
「んだべさ。」
「何んが、んだべさだ。こつたら處で、馬の尻《けつ》ばたゝいて、糞の臭ひにとツつかれて働いて――フンだよ。」
「なア、兄、お文この頃駄目だでア。」
せき[#「せき」に傍点]が源吉の方を見て、云つた。
源吉はだまつてゐた。
「わしも札幌さ行《え》きてえからつて、云つてやれば、來るどこでね
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