」――さう云つた。「お父アーン、分つたよ。」と、後から叫んだものがあつた。終つてその年寄が壇を下りると、又ガヤ/\した。
 今迄かなり、皆んなの氣持が一緒にかたまつてグツ/\と進んできたとき、この年寄つた百姓の言葉が、皆を暗闇から出て來た牛のやうに、ハツと尻ごみさした。かういふことでは、百姓は牛だつた。
「何んだベラ棒奴! ウン、野郎!」さつきの、醉拂つた百姓が又身體をヨロめかして、壇に上つてきた。「何云つてるんだい。老ボレ。そつたらごどで俺だちの貧乏どうしてくれるんだい。」
「ウン/\」といふのがあつた。「下りろ」「さうだ/\」……
 石山はそこで、出て行つた。――俺だちのしなけアならない事は、もう決つてゐるのだ。それをしなかつたら、明日食ふ米がなくなつて、俺だちは死ななければならない事だけだ。――俺だちはどうしても死んだ方がいゝと思つてゐるものは手をあげてくれ。さう云つた。
 ガヤ/\が靜まつてきた。しばらく石山はつツ立つてゐた。
 ――誰もない。ぢや俺だちは生きるんだなあ。そしたら、俺だちは俺だちの方法を實行するんだ!
 それより外に斷じてないことになるだらう。
 この斷定的な調
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