子が、皆の氣持を、またグツと前へ突き出した。
 石山は「齋藤案」を持ち出して、それに對して論議を進めることにしようと計つた。
 そして、「この事に對して意見のある方は、手をあげて自分に云つて貰ひたい。」と云つた。
 またやかましくなつた。地主のことを惡く云ふものや、それを然し何處かで擁護してゐるものや、さういふのが、お互にブツ/\云ひ合つた。中には、ブツキラ棒に興奮して、※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]はらない口で、吃りながらしやべるものもあつた。が、さういふやうに色々のことを云ひながら、然し「どうする」といふことになると百姓達は、ちつとも分つてゐないやうに見えた。石山は壇上に立つたきりで、だまつて皆のしやべるのを聞いてゐた。石山は、皆の一番後の板壁に、先生が寄りかゝつてゐるのを見た。それから少し離れた窓際に、源吉が腕をくんで、がつしり立つてゐるのを知つた。皆の眞中頃にゐて、何か腕を振つてしきりにしやべつてゐる片岡といふ百姓は、此前、地主のお孃さんが遊びに來たとき、石狩川に落ちた、その時それを助けに飛込んで、自分で半分死ぬ目に會つた男だつた。が、大部分の百姓は、ポカーンと口を
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