石山の云ふことを認め、直ちに小作料減率の請求を、全部の署名をして、地主に「嘆願」することにしてはどうか、といふことを云つた。齋藤といふ兵隊歸りの若者だつた。
 次は、四十位の百姓で、壇に上ると、いきなり手をふり※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]はしながら、醉つた眼を皆の方へすえて「俺達は……」とか「そこで以て、故に……」とか「そして須く……」「しなければならないんであります。」そんなことばかり云つた。ぐでん/\に醉拂つてゐた。皆が笑つた。誰かゞ、そんな奴は下ろせ、とか、下りろとか叫んだ。その百姓は、臺の上で見得を切つてみせると、身體をフラつかせながら壇を下りた。もと旅役者に入つてゐたことがある男で、醉拂ふと、昔の型物の眞似をするので、皆んな知つてゐた。
 年寄つた百姓が上つた。――色々説をきいたけれども、みんな「不義不忠」のことばかりだ、と云つた。言葉が齒からもれて、一言々々の間に、シツ、シツといふ音が入つた。――地主樣と自分達は親子のやうなものだ。若いものは、それを忘れてはならない。「いやしくも」地主樣にたてつくやうなことはしないことだ。「畑でも取り上げられたらどうするんだ。
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