坐をかいて坐つた。家の中は長い年の間の焚火のために、天井と云はず、羽目板と云はず、何處も眞黒になつて、テカ/\光つてゐた。天井からは長い煤がいくつも下つてゐて、それが火勢や、風で、フラ/\搖れてゐた。
臺所は土間になつて居り、それがすぐ馬小屋に續いてゐた。だから何時でも馬小屋の匂ひが家に直接《ぢか》に入つてきた。夏など、それが熟れて、ムン/\した。馬小屋の大きな蠅が、澤山かたまつて飛んで來た。――馬が時々ひくゝいなゝいた。羽目板に身體をすりつける音や、前足でゴツ/\と板をかく音がした。
家の中にはまんなかにたつた一つのランプが點つてゐた。そのランプ自身の影が、丸太で組んである天井の梁に映つてゐた。ランプが動く度に影がユラ/\搖れた。
母親のせき[#「せき」に傍点]はテーブルを持ち出しながら、
「源《げん》、お前え何んか勝《かツ》さんに用でもあるのか?」ときいた。
「何んも。」
「網の相手そんだら誰だ。」
「ん……誰でもえゝ。」
「道廳の役人が來てるツて聞いたで。えゝか。」
源吉は肩を一寸動かして、「役人か……」さう云つて笑つた。
「なア兄、この犬どうするんだ。」
由が今度は繪
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