もどつて行つた。
源吉はモツキリを二、三杯のむと、それが久し振りであつたゝめか、すつかり醉拂つてしまつた。源吉は、大きな圖體の身體を、ふりながら、他愛もなく踊りの手眞似をしたり、眼を細めて、變な聲を出して笑つたり、分けの分らないことをしやべつた。
八時頃荒物屋を出ると、源吉は側につないであつた馬の側に行つて、ヨロ/\しながら、馬の首につかまつて、それを支へにして、鼻面を撫でながら、何か獨りブツ/\云つた。さうしながらも始終身體をフラ/\させてゐた。馬から離れると、一寸立つてゐた。が、覺束ない足取りで歩き出した。もう町は人通りが無かつた。源吉は懷に兩手をはすがひにつつこんで、醉拂つたあとによくあるが、ブル/\震ひながら、そして、ひとりで何かブツ/\云ひながら歩いた。
「何んぼ働いたつて、何んになるんでえ。糞たれ。」何囘もこんな、同じことを繰り返してゐた。少し行くと軒の低いそばや[#「そばや」に傍点]があつた。源吉は、そこの入口の柱にどしんと身體をうちつけた。そして、そのまゝそれによりかゝりながら、目もあけずに「誰だ、畜生、誰だ」と云つた。中で、白粉をつけた女が「兄さん、寄つてよ、上つ
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