に飯を食ふ時、百姓はそれだけを食ふのを勿體なく思つた。それで、米に水を何倍も割つて薄くトロ/\にして、芋を入れたり、豆を交ぜたり、して食つた。
夏にとつて軒に乾して置いた何十といふ南瓜を冬中食つた。それを毎日續け樣に食ふので、どの百姓も顏から、掌から、足からすつかり眞黄色になつてしまつた。眼玉の白いところにさへ、黄色い筋が入つた。
冬近くなると、一年中はき切らしてボロ/\になつた足袋を繕ふのが、その家の年寄の仕事になつた。それにつぎを幾つもあてゝ、もう一冬間に合はせた。シヤツも襦袢も、腰卷もさうだつた。源吉の母親は押入から、色々のボロを引張つてきて、それを爐邊に山のやうに積んで、片方の玉の壞れた眼鏡を糸で耳にひつかけて、ランプの下に顏を持つて行つて仕事をした。
收穫が終つてから、冬になる間、百姓の金を當てにして何人もの行商が、一日に何囘も寄つて行つた。玩具のやうな道具をもつた乞食も來ることがあつた。が、永い冬が待つてゐることを考へれば、一きれの布も、百姓にはうつかり買へなかつた。越中富山の藥屋も小さい引出の澤山ついた桐の藥箱を背負つてやつてきた。馬などの繪をかいた藥臭いちらし[#
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