抗した。然し抵抗すればする程源吉は元氣づいた。そして身體中が、ワク[#「ワク」に傍点]/\と震ひ上つてくるやうに感じた。
四
又雨がやつてきた。日がだん/\薄暗くなり、寒さうな雲が垂れ下つてきて、霰が交つたりした。今度こそ、本當に冬がくる、さう皆が思つた。朝起きてみると水のたまつた溝の表面に氷が張つてゐた。
百姓達は冬圍ひが終つてしまふと、草|家《や》の中にもぐりこんで、土間にむしろ[#「むしろ」に傍点]を敷いて、繩を編んだり、草鞋を造つた。一年の間、畑に出て、腰をまげて土にへばりつきながら働き通して、然し、それでもまだ百姓には足りなかつた。娘達は、その出來たものや豆類などを背負つて停車場のある町に出掛けて行つた。百姓達は、誰のためにも分らずに、色んなものを作つた。が、その半分以上のものは一つ殘らず持つて行かれてしまつた。小作人は地主の小作料に、自作農は拓殖銀行の年賦の拂込金にそれが成りあがつてしまつた。その上に肥料店と農具店があつた。米をつくり、豆をつくり、唐黍をつくり、ナスビを作つた百姓は、毎日干した菜葉と、芋しか食ふものがなかつた。それより食へなかつた。その上
前へ
次へ
全140ページ中60ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング