所におくと、母親には返事もしないで、外へ出た。母親は土間で、續けざまに「つかみツ鼻」をした。
「歸りに、由ば連れで來い。」と後から言葉をかけた。
外へ出ると、ヒヤリと寒氣を感じた。空が高く晴れて、ばらまいたやうな星空だつた。源吉は、別にお祭りにも行く氣がなかつた。然し、家にゐられない氣持だつた。少し來ると、左側に高い木が五、六間並んで立つてゐた。その木の間からすぐ、石狩川の川面が見えた。星は出てゐたが、四圍は眞暗だつた。そこを、川面だけが青く光つてゐた。手前の木の幹が、それと對照して、黒くはつきり見えた。よく見ると、川に星が無數にうつつてゐた。大氣は冷え/″\としてゐた。源吉は何度も、身震ひをした。何時もお祭りの時には、神社の前よりも、若い男と女はこの河堤に集つた。源吉はお芳とそこで何囘も會つたことを思ひ出した。――源吉はイマ/\しさうに河の方へ唾をはいた。
道が曲つてゐた。そこを曲ると、ずウと前方に、お祭りのあかりが見えた。そのあかり[#「あかり」に傍点]のところだけが、こちらからでもはつきり分つた。急に、どよめき[#「どよめき」に傍点]が聞えてきた。太鼓を打つてゐるのがきこえる
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