紙だらうと思つた。
――貴女が札幌に出たがつてゐることは、自分のその頃のことから考へてみて、無理がない。……こつちの生活は、然し、自分が思つてゐたことゝ、まるつきり異つてゐる。……それで、貴女に、がつかりさせたくないために、あんなことを云つてやつたのだから許してくれ。――實は、こんないやな生活は、自分一人だけで澤山だと思つてゐる。
勿論こつちでは、そこのやうに、汚い恰好をして、年中、あんな風に働く必要はない。……然し、その代り、とてもそつちなどにゐては、どうしたつて分らないやうな「恐ろしい」ことが澤山ある。……
とにかく、貴女がどうしても、來るといふ決心をかへられないのであれば、仕方がないから、待つてゐる。……主人にも話したら人手が足りないから、丁度いゝと云つてゐる。(そして最後に)源さんには是非よろしく。
そんな意味のことが書かれてゐた。源吉はそれを、ぼんやり又初めから讀みかへしてみた。――「源さんには是非よろしく」――讀んでから、手紙を手にもつたまゝじつとしてゐた。
母親が歸つてきた。
「兄、何してる。行《え》け、行つてみ。――今、お文と會つた。」
源吉は、手紙をもとの
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