。人聲の中から時々、頓狂に、ゴム風船の破れる音や、笛の音が聞えた。途中の、農家の前に、その家の年寄が立つて、お祭りの方を見てゐた。
「お晩です。」と、源吉にくらがりで言葉をかけた。
「お晩です。」源吉も云つた。
「出掛けるのげア?」
「あ――。」
 源吉が行き過ぎかけると、「ごゆつくり。」と云つた。
 お祭りの舞臺には、十位もランプをつけてゐた。その前にはござ[#「ござ」に傍点]を引いて、村の人達がそこに坐つて見てゐた。主に若い女や子供や年寄だつた。その邊は殆んど暗かつた。その後の道の兩側には、ランプをつけた屋臺のゴム風船屋などが、四つ程ならんでゐた。絶えず、足で機械をふんでゐる、綿飴屋が、割箸に、それをからませて、子供の前につき出して、何か云つてゐた。
 子供達が一つの屋臺の前に、二、三人づゝ立つてゐた。神社の後では、小さい土俵があつて、若者が相撲をとつてゐた。源吉は何處にも興味がなかつた。帶の前に兩手をさしながら、離れて、見てゐた。舞臺では手踊りだつた。足拍子をとる毎に、板がギシ/\云つた。たゞ手と足をどたん、ばたん、動かしてゐるといふ風に踊つてゐた。が、離れてゐるので、顏や着物の
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