氣がした。
「ぜんこ、ぜんこ! よオー」
由は源吉の身體をゆすり出した。源吉はだまつて、身體を、急にひねつた。由は、他愛もなく、轉がつた。なほ激しく泣き出した。
「うんと騷げ、この糞たれ!」母親が、たまりかねたやうに又怒鳴つた。
源吉は、何んか、かう向ツ腹が不愉快に、ヂリ/\と立つてくるのを感じてゐた。
外へ、子供が二人程由を呼びに來た。
「ホラ、由、呼んでるど。」
由は、今迄泣いてゐたのを急にやめると、袖で顏中をぬぐつて、變な、附けたりの、極りの惡い笑ひ顏をして、外へ出て行つた。
源吉は仰向けに、煤けて黒光りに光つてゐる天井を、ぼんやり見ながら、今晩は行くまい、さう考へてゐた。
晩方になつて、表をガヤ/\七、八人の人が通つて行つた。停車場のある町から來た手踊りの連中だつた。紺のゴワ/\した大きな風呂敷包みを背負つた、色眼鏡をかけた男や、白粉をぬつた頬骨の出てゐる痩せた男、三味線を肩から釣つた、これも色眼鏡をかけた女、それにコテ/\と白粉をつけた十七、八の娘と七つ八つの女の子が三人程ゐた。その後から、村の子供達が四、五人ついてゐた。
源吉は寢ころんだまゝぼんやりしてゐた。
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