の頭をゴス/\なでた。始め、じいとしてゐた由が、惡戲だと、それが分ると、またワン/\と泣き出した。源吉は一つかみ[#「つかみ」に傍点]に由の頭をつかむと、
「こら、こら!」と、振つた。
「大きな態《なり》して、そつたら子《わらし》と、さわいでればえゝ!」母親が、叫んだ。
由は、今度は泣きながら、
「兄、錢(ぜんこ)けれ、錢けれ。」と云ひだした。「錢ければ、えゝ。錢ければえゝ。」
「くそ、ずるい奴だ。――錢もらへば直るツてか?」
「錢けれ、ぜんこけれ。」
由は、勢ひづいて、足をばた/\させて、それを云ひ出した。
「ホオーオ、勝えの健なんて十錢も貰つてるど、石だつてよ。――なア、兄、錢けれ、錢けれ、錢(ぜんこ)よ、よオー。」
源吉は、それには、今度耳もかさずにじつとした。源吉は、お芳が札幌へ行つたと聞かされたとき、本當のところ、別な意味からも「淋しく」された事を思ひ出した。村ではとてもやつて行けないために、女達が都會《まち》へ出て下女になつたり、女工になつたり、――畠で働かなければならない男でさへ出て行つた。だん/\村の人がゐなくなる、さう思つた。源吉には、イヤ[#「イヤ」に傍点]な
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