戸棚もあつたし、(その中には剥製の烏が一羽ゐた。)白い鍵のはげたオルガンが一臺隅つこに寄せてあつた。校長は坊主を一番嫌つた。この先生がどうしてこの村へ來たか誰も知つてゐなかつた。そして又澁顏をして人好きが惡かつたが、「偉い人」だ、さういふので、尊敬されてゐた。市の小學校で校長と喧嘩したゝめに、こんな處へ來たのだとも云はれていた。先生の室――それは、その教室から廊下を隔てゝすぐ續いてゐた――には、澤山本が積まさつてゐた。
 源吉は、先生に、「坊主歸りました。」と云つた。先生は顏をふむ! といふ風に動かして、「さうか、肥溜の中へでも、つまみ込んでしまへばよかつたのに。あれが村に來る度に、百姓がだん/\半可臭くなつて、頓馬になつてゆくんだ。――畜生。」と云つた。
         *
 この村のお祭りが、丁度、このいゝお天氣にかゝつた。
 こんな事があれば、大抵先きに立つてやることに、決まつてゐる※[#「仝」の「工」に代えて「※[#ます記号、1−2−23]」、屋号を示す記号、47−9]の菊や、丸山のオンコなどが、神社の前に「奉納」の縱に長い、大きな旗を建て、子供を手傳はせて、がたぴしする舞臺
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