に傍点]の前にしやがんで火をプウ/\吹いてゐた。髮の毛がモシヤ/\となつて、眼に煙が入る度に前掛でこすつた。薄暗い煙のなかでは、せき[#「せき」に傍点]は人間ではない何か別な「生き物」が這ひつくばつてゐるやうに思はれた。へつつひの火でその顏の半面だけがめら/\光つて見えるのが、又なほ凄かつた。由が入つてくると、
「早ぐ、ランプばつけれ!」と云つた。
 由は煙《けむ》いのと、何時ものむしやくしやで、半分泣きながら上つて行つて、戸棚の上からランプを下した。涙や鼻水が後から後から出た。ランプの臺を振つてみると、石油が入つてゐなかつた。
「母《ちゝ》、油ねえど。」
「阿呆、ねがつたら、隣りさ行《え》つてくるべ、糞たれ。」
「じえんこ(錢)は?」
「兄がら貰つて行《え》け。」
「――隣りの犬《えぬ》おつかねえでえ。」
 由はランプの臺を持つたまゝ、母親の後にウロ/\して立つてゐた。
 せき[#「せき」に傍点]は臺所にあげてあるザルの米を、釜の中に入れた。
「行《え》げたら、行げ。」
 由は、なぐられると思つて外へ出た。
「兄――!」さう呼んでみた。
 それから裏口に※[#「廴+囘」、第4水準2−
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