に眼をこすりながら、出て來た。眼の※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]はりが汚く輪をつくつてゐた。
「えゝ、糞|母《ちゝ》!」惡態をついた。
 源吉はだまつて裏の方へ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて[#「※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて」は底本では「※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]って」]行つた。
 由は裂目が澤山入つて、ボロ/\にこぼれる泥壁に寄りかゝりながら、ランプのホヤを磨きにかゝつた。ホヤの端の方を掌で押へて、ハアーと息を吹きこんで、新聞紙の圓めたのを中に入れてやつて磨いた。それを何度も繰り返した。石油ツ臭い油煙が手についた。由は毎日々々のこのホヤ磨きが嫌で/\たまらなかつた。由がそれを磨きにかゝる迄には、母親のせき[#「せき」に傍点]が何十邊とどならなければならなかつた。それから、由の頬を一度はなぐらなければならなかつた。
「えゝ、糞|母《ちゝ》。」由は、磨きながら、思ひ出して、獨言した。
「由、そつたらどこで、今《えま》迄なにしてるだ!」
「今《えま》いくよオ!」さう返事をした。「えゝ、糞ちゝ、」
 母親はへつつひ[#「へつつひ」
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