傳はせて網の端のロープを河には後向きに、肩にかけ、網が水流に流される力に反抗して、岸の樹に結びつけた。二人の力でも、二人とも時々ヨロ/\と後によろけたことさへあつた。それから舟を岸にあげた。
それで終つた。
二人は次の朝四時頃、こゝへ來ることにして、そこから畑道に出て、家に歸つた。
源吉が家に入つて行くと、ランプを消して皆寢てゐた。彼は手さぐりで、臺所に行つて、水瓶からひしやく[#「ひしやく」に傍点]のまゝ、ゴクリ/\と咽喉をならして水を二、三杯續け樣にのんだ。厩小屋で、馬が尾毛で、ピシリ/\と自分の身體をうつ音がした。
二
朝の四時は、夜の九時、十時と同じやうに眞暗だつた。それよりは青みを帶びて、何處か底寒かつた。
川は水が増して、その勢ひで、ロープを結びつけてゐた樹が、たわん[#「たわん」に傍点]で、ゆれてゐた。二人が家を出て、其處に着くまでは雨が止んでゐたのに、仕事にとりかゝつた頃から、又ひどく降り出してきた。
すぐに網をひきにかゝつた。その水流に逆つて網をひくことは、然し容易な仕事ではなかつた。二人は何度もヨロめいた。そのまんま河ん中に、ひつぱりこま
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