一杯にゆすつた。急に頭の上で葉がガサ/\となると、パラ/\音がして、雨滴が落ちてきた。一寸離れて立つてゐた勝が、その時、ギヨツとしたやうに、源吉の立つてゐる所へ走つてきた。源吉も思はず緊張して、向き直つた。
「何んだ。」源吉は聲をひそめて、然し、鋭くきいた。
「今の、なんだ。」勝は、周章てゝ、どもつて云つた。
「うん?」
「ガサ/\つての。」
源吉は、「何アーんで。」と云つて、笑つた。「んか、――何アんでえ。俺の方でびつくりしてしまつたで。」
「何んだ。びつくりしたで。」
「樹ば振つてみたんだ。水流が早えから、大丈夫かなと思つて、幹ばためしてみたんだ。そつたらこつたら、その棍棒糞も役に立たねべよ。」源吉は笑つた。
二人は又舟にもどつた。そして、網をすつかり順序よく舟に積み直すと、源吉は自分で舟を漕いで、勝に、網を下してもらふことにした。舟は眞直ぐ向ひ側に、力一杯に漕ぎ出された。が、さうすると、丁度結局舟は斜め下流に、カーブにかゝつて向ひ側につくことになるのだつた。
源吉は漕ぎながら、「さア、やつた。」と云つた。勝はドン/\網を水の中になげこんで行つた。向ひ側につくと、源吉は勝に手
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