べ、こゝ?」
勝は源吉との距離をつめて、きいた。
二人は川岸に下りた。源吉は岸につないである小舟に背の荷物を、どしんと投げてやつた。それから舟の端に腰をかけて、一寸の間、四圍《あたり》を見てゐた。
「オイ、勝、お前なんか大きな聲で、唄ば歌へや。」源吉は煙草を出しながら云つた。
勝は、變に思つて、きゝかへした。
「なんでもえゝんだ。――まア、先に俺一つ歌ふかなア。――なんでも、大ツきな聲でだ。」
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スツトトン、スツトトンと通《かよ》はせてえ――と、
今更ら嫌《え》やとは、それア無理よ、――だ、
嫌やなら、嫌ぢやと最初からア――と、
云《え》えば、ストトンと通やせぬ――と、
スツトトン、スツトトン
[#ここで字下げ終わり]
源吉は、しやがれた聲を、突調子もなく大きく張りあげて歌つた。それがちつとも反響もしないで、ぶつきら棒に消えてしまつた。勝は、氣味わるく、むしろキヨトンとしてゐた。
「どうしたんだ?」
源吉は、急に笑ひ出した。大きな身體をゆすつて、無遠慮に大きく笑つた。
「うん?」
笑ひをやめない。
「オイ、よせよ。」
勝は顏をしかめて、哀願でもす
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