行つたら、五、六疋秋味が背中ば見せて下つて行つたツて云つたで。」
「ンか、うめえ/\。」
それからしばらく二人ともだまつて歩いた。勝は、大股な源吉に、急ぎ足で追ひつくやうに歩いてゐた。
急に横で、牛が幅の廣い聲で、ないた。思ひがけないので二人ともギヨツとした。
「畜生、びつくりさせやがる。めんこくもねえ牛《べこ》だ!」
すると、ずウと遠くで、別な牛が答へるやうになくのが聞えた。一軒の家が横手に見えた。其處を通り過ぎるとき、思ひ出したやうに勝が、
「芳のことをきいたか?」と、前に言葉をかけた。勝は、芳が札幌へ行く前の、芳と源吉の關係を知つてゐた。
「うん、」源吉は面白くないことを露骨に出して返事をした。「お文も困りもんだよ。」
「…………」
二人は、そこで頭でも鉢合せしたやうに、言葉を切つた。
「勝、お前餘計なこと、お文に云ふんだべ。」
「俺?」
「うん。お前えも、お文に負けなえからなあ。百姓|嫌《え》やになつたんだべよ。」
勝はまだ何も云はなかつた。
「札幌の街《まち》ば見てから、夢ばツかし見てるべ。」
「こつたらどん百姓が、えゝかげん嫌にならなかつたら阿呆だらう。」
「ふん
前へ
次へ
全140ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング