ど。」
「んだべよ、きつと。んだから、なほ面白いんだよ。」
「…………」
「道廳の小役人に見付かつてたまるもんけ。あえつ等だつて、おツかながつてるし、今頃眠むがつてるべ。」
 源吉は大きな聲で笑つた。が、だだツ廣い平原はちつとも響き返へしもしないで、かへつて不氣味に消えた。
 源吉は先に立つて、あまりもの[#「もの」に傍点]も云はずについてくる勝を、引きずツてでもゐるやうに、グン/\歩いてゐた。五分位歩いたとき、又雨が降つてきた。眞暗闇の廣漠々とした平原に雨がザアーと音をさして降つてゐるその最《さ》中を提灯もつけずに歩くのは、勝には、然し、矢張り氣持よくなかつた。
「嫌だなア。」
「うん?」源吉はふり向いて、雨の音に逆つて、きいた。
「あまりよくねえツて。」
「何が。」
 勝はてれたやうに笑つた。
 しばらくしてから、
「役人は何處に泊つてるんだ。」と、勝が自分の前を歩いてゆく、がつしりした肩をしてゐる源吉にきいた。
「北村だべよ。北村の宿屋だべよ。――お湯さ入つて、えゝ氣持で長がまつてるべ。こつから三里もあるもの、ワザ/\こつたら雨降りに、出掛けて來なべえ。」
「今朝、俺アのお母川さ
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