へ渦をまいて、上つた。
凍つた川から引いてくる水ではどうにもならなかつた。消防の人や青年團が、怒鳴つたりしては、あつちこつち、提灯をふりかざして走り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐた。
「もう半分以上も燒けて、どうにもならなくなつてしまつた頃、家の中から、まるで聞いたゞけでも、身震ひするやうな、それア、それア――何んとも云はれないやうな叫び聲がきこえてゐたつて! ――その人、耳に殘つて耳に殘つて困るつて云つてたの。鷄でもしめ殺されるやうな、のどから血を出しながらしぼつてるつて聲だつて。」
女の人が、ヒソ/\並んで立つてゐた知合ひらしい人にささやいてゐた。
「たゝられたんだ、きつと。」
相手はもつと低い聲でさう云つた。それから二人ともだまつた。
源吉は誰にも氣付かれずに、防雪林が鐵道沿線に添つて並んでゐるところまで、走つてきた。防雪林の片側が火事の光を反射して明るくなつてゐた。振りかへつてみると、空一杯が赤く染つてゐた。現場の手前の家やその屋根の上に立つて、何やら手を振つてゐる人や、電柱などが一つ一つ黒く、はつきり見えた。そこで騷いでゐる人達の叫び聲などが、何か
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