達が一齊に、そつちを見た。暗い空が、心持明るかつた。が、瞬き一つする間に、高さが一丈もある火の柱がフキ[#「フキ」に傍点]上つた。バチ/\と燒けあがる火の音が聞えてきた。見てゐるうちに、町中の、家と云はず、木と云はず、それ等の片側だけが、搖めく光をあびて、眞赤になつて、明暗がくつきりとついた。町を走つてゆく人の殺氣だつた顏が一つ一つ、赤インキをブチかけたやうに見えた。
町中の人が皆家から外へ飛び出してゐた。女や子供は、齒をガタ/\いはせて、互に肩を合はせながら立つて見てゐた。
「何處だらう。」
「さあ。――停車場だらうか。」
「停車場なら、方角が異ふよ。もうちよつと右寄りだ。」
「何處だべ。」向側の家の人に言葉をかけた。
「地主でないかな。」
「んだかも、知れない。――」
「まあ/\。」
走つてゆく人に、きくと、
「地主だ、地主だ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と、大聲でどなつて行つた。
「地主だら放つておけや。」誰かゞ、ひくい聲で云つた。
「たゝられたんだ。」
「んだべよ。」
「――放け火でねえか。」思はず大聲で云つたものがあつた。
一寸だまつた。
「さあ、大變なことになるべ
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