ゝめ[#「きゝめ」に傍点]があることは分つてゐた。が、この場合、源吉の氣持としては、さうする事さへはがゆ[#「はがゆ」に傍点]かつた。嚴密に云つて、源吉は、どうなる、など、さう先のことは考へなかつた。それよりも亦、自分のしようと思つてゐることさへ、出來るものか、どうかさへ分らずに、やつてのけようとしてゐたのだ。それは、この前の、鮭の密漁をした時、皆が二ヶ月も三ヶ月も魚を食へもせずに、モグ/\やつてゐたとき、源吉はそんなのにお構ひなしにさつさと自分でやつてのけた、それと同じだつた。「親父とお芳の遺言と、俺の考へ――この三つでやるんだ。」
然し、一方、源吉は自分のすることが、さう無駄であるとは思はなかつた。かへつて、自分の思ひ切つたことが、闇にゐる牛のやうにのろい[#「のろい」に傍点]百姓にキツト[#「キツト」に傍点]何か、グアンとやるだらう、そしたら、それが、口火のやうになつて、皆が案外かへつて[#「かへつて」に傍点]手ツ取早く、一緒になつて、ヤレツ、ヤレツ※[#感嘆符二つ、1−8−75] と鍬と鎌をもつて立ち上る! さうなれば、まんまと、畑は俺達百姓の手に、もぎ取れるやうになるかも知
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